小麦アレルギーの原因となった旧茶のしずく石鹸
旧茶のしずく石鹸が引き金となった小麦アレルギー発症事件。あれから数年経ちましたが未だアレルギー症状と戦っている人はたくさんいます。
そんなアレルギーを発症させる原因となった旧茶のしずく石鹸ですが発売は2005年、株式会社悠香(ゆうか)から販売され大々的な広告もされていたことから、2010年頃には約460万人に約4600万個以上を販売したとされています。
2008年にはモンドセレクション「金賞」受賞という表向きは素晴らしい製品のように思われました。
しかし使用者から小麦アレルギー発症の報告が多数寄せられ始め問題となり、製品回収により全国的に知られるところとなりました。
問題となった成り行き
問題となったのは旧製品の「茶のしずく石鹸」です。
世間を騒がせる前からアレルギー反応とアレルギー発症の報告を受けていながら放置し続けただけでなく、CMも垂れ流し状態でした。
使用後、小麦アレルギーを発症した人が出て中間報告によるとその数は254人、なかでも半数で激しいアレルギー症状(呼吸困難など)が出た。というものです。
その後、確実例として登録されたのは463人とされていますが、特別委は約1千人以上が発症しているのでは?と調査を継続しました。
更にその後、2012年~2014年までに2111人が小麦アレルギーと診断されています。
発症者に見られた症状は以下です。
・25%
アナフィラキシーショック(血圧低下、呼吸困難などの激しい症状)
・27%
嘔吐、呼吸困難、下痢の症状が出たもののショック症状は出ていない
・その他の症状
瞼が腫れる、じんましん、鼻水など
注意喚起も出される事態へ
国民生活センターと厚生労働省から旧茶のしずく石鹸と小麦加水分解物含有製品に関する注意喚起が出されました。
◆国民生活センター
小麦加水分解物を含有する「旧茶のしずく石鹸」(2010年12月7日以前の販売分)による危害状況について-アナフィラキシーを発症したケースも-
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110714_1.html
小麦加水分解物を含有する「旧茶のしずく石鹸」(2010年12月7日以前の販売分)7月14日公表後の危害状況について
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110908_5.html
◆厚生労働省
小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uaiu.html
洗顔石鹸で小麦アレルギー発症
まず旧茶のしずく石鹸を使用した人の中で小麦アレルギーを発症した人は多くその特徴は、
小麦を食べた後に激しい運動により症状が出るのが従来の小麦アレルギーなのに対し、石鹸使用後の場合は軽度の運動(買い物程度など)で発症する例も報告されています。
また石鹸を使わなくなってから1年以内にアレルギーの原因物質が半減、また小麦製品を食べても症状が出なくなった。というケースも報告されています。
小麦アレルギーを発症した原因
旧製品の茶のしずく石鹸に使われていた「グルパール19S」という小麦由来成分の加水分解コムギが原因です。
別名「加水分解コムギ末グルパール19S」片山化学工業研究所が製造していましたが、2010に製造終了しました。茶のしずく石鹸の他にも30種類を超える化粧品に使われ、保湿成分として使用が認可されていた成分です。
自主回収対象製品(茶のしずく石鹸と同じ加水分解コムギ末を含有する製品)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/cyanoshizuku/dl/06.pdf
他の製品にも含まれているにもかかわらず、なぜ茶のしずく石鹸でアレルギーの原因となってしまったのかというと、
グルパール19Sがアレルギーを引き起こした理由としては、他の加水分解コムギ製品よりも平均分子量が大きく、免疫応答を誘発しやすかった可能性が示唆されている[6][7]。
なお、石鹸だけでなく、豚の角煮に添加されていたグルパールが原因と診断されたアレルギーの事例も報告されている[8]。
Wikipedia:グルパールより引用
このように分子量の数字が低ければ肌に浸透すると考えられている化粧品成分でも、逆に分子量が大きくなると健康被害につながるケースがあるようです。
旧茶のしずく石鹸の場合、肌や粘膜から吸収され体内へ繰り返しアレルギーの原因となる成分を入れ続けたことで、グルパール19S特異的IgE抗体ができ、この抗体が小麦と反応することでアレルギー症状が引き起こされたのでは?とのことです。
あと一説では「グルパール19Sの含有濃度が他製品よりも高かった」という話もあるので、そうなると濃度と分子量の高さが原因となってしまったのでは?と思われます。
さらに「この成分を製造する過程で、アレルギーを引き起こすリスクがより高い小麦アレルゲンへと変わってしまった」ということが明らかにされました。
結果、使用用途からいって毎日の使用により粘膜に付着しアレルゲンを吸収しやすい状態にあったことと、肌のバリア機能低下によることもアレルゲンが吸収されやすい状態になってしまうことで発症してしまった。ということが考えられています。
判決について
2011年には被害救済弁護団の立ち上げにより、アレルギー発症の原因となる成分の製造元である片山化学工業、製造したフェニックス社を相手取り損害賠償請求の集団訴訟が起こりました。
訴訟が提起された裁判所は全国28か所、原告総数1300人以上、損害賠償の総額140億円以上とされています。
2013年に一区切りとした訴訟のほか、その後2017年9月には751人が和解に応じ、20の地裁で和解成立となり、ここまでの和解金は約10億5千万円となっています。
ちなみに地裁によって和解金や和解条件に大差はないものの、全て同じというわけではなく被害の程度によるところとなりました。
また2018年、東京地裁は約3440万円の損害賠償を命じたものの片山化学工業研究所の責任は認めていません。
片山化学工業研究所に対しては原告が訴えを取り下げたり放棄することで、ほとんど終了しているようです。
この集団訴訟とは別に個人で訴訟を起こし和解したケースもあります。
他のケースでは裁判所からの和解案を一部受け入れる人もいて、この場合は裁判長期化により負担が大きくなる被害者が和解せざるを得なかった。というものです。
判決の内容を要約
旧茶のしずく石鹸に含まれる「グルパール19S」が原因で小麦アレルギーが発症したことを認め、販売会社に法的責任があることが明確になりました。
但し原因となった成分を製造した会社への責任は認められていません。
この点が個人的に「ナゼ?」となってしまう部分ではあるのですが、判決ではあくまでも「石鹸の作り方が問題だった」としています。
以下に裁判の内容が分かる資料を紹介します。
【詳しい裁判の内容】
茶のしずく石けん東京訴訟 第 1 審 判 決 – 裁判所
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/088148_hanrei.pdf#search=’%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB19S+%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB’
まとめ
原因となった成分は小麦由来の加水分解コムギだったわけですが、加水分解コムギの作り方はメーカーごとに違うし、製品の使用方法や使用濃度も違うものなので、茶のしずく石鹸で副作用が出たからといって、他の製品でも同様の症状が出るとは限りません。
この一件以来、「そちらの製品に加水分解コムギが使われているようですが・・・」のような問い合わせが増えたメーカーもあるようです。
問題となったのは「グルパール19S」であり、それ以外の加水分解コムギで何かしらの副作用が報告された例は今のところないようなのでご安心ください。
ちなみに現在も同販売メーカーでお茶石けんが売られていますが、こちらには問題となった成分は使われていません。と言われたところで思うところは「医薬部外品だから表示されている成分が必ずしも全成分とは限らないんだよな~」という点です。
【薬用 悠香の石鹸】の全成分表示
有効成分:グリチルリチン酸2K
その他の成分:石けん用素地、茶エキス-1、オウゴンエキス、カモミラエキス-1、アロエエキス-2、 黒砂糖、ユキノシタエキス、ホホバ油、シア脂、ベントナイト、グリセリン、ファンゴ、 ヒドロキシエタンジホスホン酸4Na、フェノキシエタノール、黄酸化Fe、群青、香料、BG
表示されていない成分もあるとすれば…と考えればキリはないですが、今のところ製品を使用しても問題はないようです。
この事件を経て個人的に感じたことは「やっぱりマーケティングが上手な製品がたくさん売れるんだなぁ」ってことです。テレビCMでは有名芸能人起用してましたしね。それだけでも購買意欲駆り立てられますもんね。
言い方は悪くなりますが、だって…たかが洗顔石鹸ですよ。
洗顔石鹸だけ変えてもクレンジングやスキンケア、体の内側のケアも含めて見直さないと肌のコンディションは変わらないと思う。
というのが私の思うところなのですが、実は母が購入を検討していたこともあって、危うく私まで一緒に使用者の一人になるところでした。あの時「あれ使ったからって、あの人みたいになれるわけじゃないよ」と母に言った後「そっか」で納得した諦めの早い母に感謝です。